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神戸地方裁判所 昭和41年(行ク)8号 決定 1966年12月26日

申立人 山中博

被申立人 神戸税務署長

訴訟代理人 立花政雄 外二名

主文

被申立人が昭和四一年二月二日、申立人に別紙第一目録記載昭和三七年度、同三八年度、同三九年度の所得税(加算税、延滞税、滞納処分費を含む)の滞納金があるとして、別紙第二目録(一)記載不動産に対してなした差押処分および昭和四一年一一月二八日、右同様の理由で別紙第二目録(二)、(三)記載不動産に対してなした参加差押処分の各執行を、当裁判所昭和四一年(行ウ)第一〇号所得税更正決定等取消請求事件の本案判決が確定するまで停止する。

申立人の第一次的申立を棄却する。

理由

申立代理人は第一次的申立として、「被申立人が申立人に対してなした別紙第一目録記載昭和三七年度同三八年度同三九年度所得税賦課処分の効力を、申立人と被申立人間の神戸地方裁判所昭和四一年(行ウ)第一〇号事件の判決確定まで停止する。」との決定を求め、第二次的申立として主文と同趣旨の決定を求め、第一次的申立の理由とするところは、被申立人は昭和四〇年九月一一日付で申立人に対し申立人の昭和三七年度、同三八年度、同三九年度の各所得税について更正処分および過少申告加算税の賦課処分をしたが、申立人は右各課税処分の対象とされている事業所得の事業を行つていないので、被申立人に対する異議の申立をし、さらに大阪国税局に対する審査請求を経て、現在神戸地方裁判所に右各処分の取消訴訟が係属中(昭和四一年(行ウ)第一〇号)であるところ、被申立人は申立人に右課税処分による別紙第一目録記載所得税の滞納金があるとして、昭和四一年二月二日申立人所有の別紙第二目録(一)記載不動産に対して差押処分をし、同年一二月一日右不動産の公売期日を同年同月一二日と指定通知してきたが、右公売は本件執行停止申立中のゆえをもつて被申立人に事実上延期してもらつたけれども、近く次の公売期日が指定されるであろうことが予想され、右不動産は申立人一家にとつて生活上欠くべからざるものであり、これが公売されるとたちまち生活に困るし、また一度公売されるとこれを買戻すことは殆んど不可能であつて、申立人は回復困難な損害をうけるので、右課税処分の効力の停止を求めるというにあり、第二次的申立の理由としては、右第一次申立の理由につけ加えて、被申立人は昭和四一年一一月二八日別紙第一目録記載所得税の滞納金徴収のためといつて、神戸市がすでに差押えていた申立人所有の別紙第二目録(二)記載不動産と、同じく神戸財務事務所が差押えていた申立人所有の同目録(三)記載不動産に対し参加差押をなした(なお、右参加差押のもとになつている差押は、神戸市および神戸財務事務所が本件係争の事業所得に関して、被申立人の課税処分に準じてそれぞれ賦課された市民税、事業税にもとづくものである。)から、別紙第二目録(一)記載不動産に対する差押ならびに同目録(二)、(三)記載不動産に対する参加差押処分の執行停止を求める、というにある。

よつて按ずるに、昭和四一年(行ウ)第一〇号所得税更正決定等取消請求事件が当裁判所に係属中であることは当裁判所に顕著であるところ、まず申立人は第一次的申立として別紙第一目録記載所得税課税処分の効力の停止を求めるけれども、行政事件訴訟法第二五条第二項但書によれば、処分の効力の停止は処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合にはすることができないとされており、本件申立において申立人が求めている別紙第二目録(一)記載不動産の公売処分を差止めることおよび同目録(二)、(三)記載不動産の参加差押の執行を停止することのためには、申立人が第二次的申立において求めているように右目録(一)記載不動産に対する差押処分および(二)、(三)記載不動産に対する参加差押処分の各執行を停止すればよいのであるから、前記課税処分の効力の停止は許されないものと解する。

そして、本件記録ならびに疏明資料に徴すれば、申立人の第二次的申立は理由があるものと認められる。

なお、

(一)  執行停止の対象となる処分は本案訴訟において争われている行政処分そのもの(本件においては課税処分)に限られ、これと別個の処分(本件においては差押処分等の滞納処分)については執行停止を求めることができない旨意見をのべるけれども、本件のように先行処分と続行処分の関係にある場合において、未だなされていない続行処分の差止ができるか否かはさておき、課税処分を本案で争つていて、それに続いてなされた差押処分もしくは参加差押処分の執行停止を求めることはできるものと解する。

(二)  本案について理由がないとみえる場合(消極的要件)にあたる旨意見をのべるけれども、そのように認むべき資料はない。

(三)  回復の困難な損害を避けるための緊急の必要があるとはいえない旨意見をのべるけれども、同法第二五条第二項にいう「回復の困難な損害」を金銭賠償によつては償い得ない損害と狭義に解することは相当でないというべきところ、申立人の陳述によれば申立人は別紙第二目録記載の物件に対しそれぞれ固有の所有目的を有することが認められるばかりでなく、一般的にみて、近時の住宅事情からすれば一旦公売により第三者の所有に帰属した物件を買い戻すことは甚だ困難であるといえること、公売処分による売価は通常の取引価格を下廻ることが多く、これに代わる不動産を取得するためにはさらに多額の経済的負担を余儀なくされるところから、その資力のない場合には回復しがたい打撃を蒙るべきこと等の諸事情を併せ考察すると、右物件に対する公売処分の執行により申立人は回復の困難な損害を受けるものというを妨げないと解する。そしてその損害を避けるため緊急の必要の存することは、現に右物件に対する公売処分が進行していることに照らし、その疏明があるものというべきである。

よつて行政事件訴訟法第二五条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 原田久太郎 保澤末良 河上元康)

(別紙)

第一目録

年度

税目

納期限

本税(円)

加算税(円)

延滞税

滞納処分費(円)

三七

所得税

四〇、一〇、一一

四四万八、七五〇

二万二、四〇〇

法律による金額全額

一八〇

三八

四七万六、九五〇

二万三、八〇〇

三九

六一万四、八六〇

三万〇、七〇〇

第二目録の(一)

神戸市葺合区若菜通七丁目三番の二

一、宅地一〇四坪一合(三四四・一三二一m2)

神戸市葺合区国香通六丁目二番地

家屋番号同町四一番

一、木造亜鉛メツキ鋼板瓦交葺二階建工場居宅

床面積 一階二六・二五坪(八六・七七m2)

二階 五・〇〇坪(一六・五二m2)

第二目録の(二)

神戸市葺合区国香通六丁目二番地

家屋番号同町四〇番

一、木造瓦葺平家建居宅一六坪〇合九勺(五三・一九m2)

第二目録の(三)

神戸市葺合区琴緒町一丁目一〇番地の一四

家屋番号同町一六三番

一、木造瓦葺二階建共同住宅

一階 二四坪一合三勺(七九・七六m2)

二階 二四坪一合三勺(七九・七六m2)

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